【イベントレポート】AI研究セミナー「業界変革を実現するAI活用のススメ」

Client
電源開発株式会社
Business
電気事業
URL
https://www.jpower.co.jp/
Keyword
  • ヒトの行動特定

2022年5月17日、Plug and Play Japanと株式会社ACESは、AI研究セミナー「業界変革を実現するAI活用のススメ」を開催しました。

事前アンケートを募ったところ、参加者の約半数はDX・AI活用プロジェクト未経験。「最先端技術をどう活用すべきか」「技術の活用領域の見定めが難しい」という声が経験者、未経験者を問わず多数上がりました。 株式会社ACESの田村代表は「なんとなく始めるPoC(概念実証)」に対して警鐘を鳴らします。「なんとなくPoC」が引き起こすDX・AI活用の頓挫が増えている今、どうすればプロジェクトを前に進めることができるのでしょうか。

AIプロジェクトを成功に導くために考慮すべきこと

DXやAIの導入プロジェクトでは、知識や経験の不足から「とりあえず技術検証をしよう」「PoCならコストが抑えられる」などと見切り発車で現場が走り出すことも少なくありません。しかし、見切り発車が導くPoC止まりで挫折してしまうプロジェクトは、PoCならぬ「Po死」なのです。

田村氏は「PoCの失敗、継続断念はPoCの前にすでに決まっている」と断言します。PoCは検証ですから、仮説がなければ実施しても意味はありません。デジタル化によってどう変わっていきたいのか。その問いの質がAI活用やDX推進を左右します。PoCに取り組む以前に、事業変革を実現するための「筋の良い仮説」を作ることが必要です。

Deep Learningの進化により、過去の経験則から帰納的に推論していた情報の処理がソフトウェアにもできるようになりました。しかし一方で、Deep Learningの演繹的な処理能力は「魔法のランプ」のように万能ではありません。AIの得意・不得意を理解し作業を正しく分解することがAI活用の大事なポイントです。単価が高くトランザクション数の多い業務、熟練者・プロフェッショナルが担う認知処理のような業務をAI化すると高いROIが期待できるでしょう。

ACESが実践するDX支援 5つのステップ

ACESでは、5つのステップでクライアントのDXプロジェクトを支援しています。

STEP 1 コンサルティング
経営課題と現場のオペレーションを構造化することから始めます。DX完了後の理想像と照らし合わせてイシューを特定し、本当に実行するべきデジタル事業を見定めます。

STEP 2 AI事業価値デザイン
イシューのKPIをそのままAIに渡すのではなく、事業課題と最先端技術の両方の観点から課題をAIの得意なタスクへと整理することで、AIの事業価値と実現性を最大化することができます。

STEP 3 AIモジュール導入
ACESでは、AIアルゴリズムを独自で研究開発しモジュール化。柔軟な組み合わせができるので、多様なビジネスシーンに対応することが可能です。

STEP 4 現場検証・運用
現場のニーズに合わせて導入したAIをアジャイルに検証しながら最適化します。

STEP 5 デジタル事業実行
ビジネス全体をデジタルで接続し、データとAIアルゴリズムを連動させることで、業務プロセスの改善や優れた顧客体験を実現します。

このようなステップで、ACESが支援するDXプロジェクトが初回PoCから次ステップへと進んだ割合は約93%。これが必ずしも正解ではありませんが、属人化している業務をAIで再現する(もしくは補う)ことが企業のAIトランスフォーメーションの第一歩となっています。

まとめ:AI活用領域を見定めるための3つのポイント

田村氏は最後に、今回のプレゼンテーションで挙げたAIプロジェクトを成功に導くための3つのポイントを改めて強調しました。

業務設計とAIデザインはACESが得意とするところ。「このようなプロセスや考え方を取り入れながら、事業や業界を一緒に変えていけたら」と参加者にメッセージを送り、プレゼンテーションを締めくくりました。

ケーススタディ:J-POWER

J-POWER(電源開発株式会社)は、2021年に策定した3カ年中期経営計画に基づいて、社内にDX推進戦略部会を設立。計画の中核を担うDXについて、全社横串体制でスピード感を持って推進することになりました。さまざまな課題が混在する中、J-POWER デジタルイノベーション部 DX戦略室 森田氏は労働環境の改善、労働災害の削減を目的とした労災事例データベースの構築・運用プロジェクトを担当。社内のステークホルダーと連携し、監視カメラの映像に基づく不安全検知システムなどを開発しました。

監視カメラの映像に基づく不安全検知システム全体像

プロジェクト推進でポイントとなったのは、ステークホルダーの巻き込み方。森田氏は「コンセプトを構想し、理解者を増やすことを目指した」と解説します。具体的には、まずは様々な技術活用事例の収集や最新の技術を積極的にインプットしてアイデアを構想、その後、社内のイシューの一つであった労働安全のテーマに当てはめてアイディアを具体的に練り上げた。また、「現場を巻き込むため、口頭での説明だけでなくデモやモックアップを活用した」と振り返りました。

パネルディスカッション

パネルディスカッションではPlug and Play Japan仲田氏がモデレーターとなり、事前アンケートで挙がった疑問・課題について、登壇者とともにアイデアを模索しました。

参加者から多く挙がったのは「現場の調整に苦労している」という声。日経新聞では、現場の中堅社員の反発がDX推進にブレーキをかけているという記事も出ています。森田氏に紹介いただいたJ-POWERでのプロジェクトは成功事例として語られましたが、難しい場面もあったのではないでしょうか。

森田氏は「現場が自ら『やりたい』と発案したアイデアは円滑に進み、現場の理解も得やすかった」とする一方、「現場に浸透していない技術を活用するアイデアなど、トップダウンの案件ではうまく運ばないものもある」と本音を漏らします。そういった場合は簡単なモデルを用いたデモ動画など見せて理解を促したり、上長を先に説得して協力体制を築いたりという工夫で乗り切ったそうです。

田村氏も「誰を巻き込むかは大事」と同意しつつ、加えて「ステークホルダーを巻き込んでいくリーダーシップも大事」と指摘。華やかなイメージのあるデジタルですが、意外と泥臭い部分も多くプロジェクトが滞りがちという現実を挙げ、「適切な人を巻き込んでとにかく前に進むことが重要」と述べました。 時流に乗ってDXやAIの活用に取り組もうとしても、目的やゴールが明確化していなければプロジェクトは前に進みません。最適なAIデザインと最適なステークホルダーを巻き込むことが事業変革の鍵を握るのだと再認識するセミナーとなりました。

登壇者 プロフィール

電源開発株式会社(J-POWER)

  • 森田 和敏

    デジタルイノベーション部プロジェクト室

    情報通信の技術者として、発電所の遠隔監視制御に使われる専用の通信ネットワーク(マイクロ波無線通信網、電話交換網、送電線保護システムなど)の構築や情報端末用のLAN/WANの設計、整備に従事。現在は、社内業務へのデジタル技術活用プロジェクトのPMを担当し、画像認識技術を用いた作業現場の安全向上や機械学習を用いた気象予測のプロジェクトに従事。2022年3月、立教大学大学院人工知能研究科において修士号(人工知能科学)取得。

Plug and Play Japan 株式会社

  • 仲田 紘司

    Senior Partner Success Manager

    東京大学、同大学院農学生命科学研究科修了。日本郵船にてコンテナ船の営業業務に従事した後アクセンチュアに入社し、Digital Strategy Consultantとし様々な業界の大手企業を対象とした DX支援プロジェクトに多数携わる。2019年にPlug and Play Japanに入社。現在はSenior Partner Success Managerとしてパートナー企業のイノベーション創出活動を支援。

ACES

  • 田村 浩一郎 Koichiro Tamura

    東京大学工学系研究科 松尾研究室博士課程在籍。金融、ネットワーク分析、自然言語処理や広告最適化などに対して機械学習の応用研究に従事。GCI 講座優秀賞、DL 応用講座最優秀賞、トヨタ・ドワンゴ高度人工知能人材奨学金などDLに関わる様々な賞を受賞し、数多くの企業との共同研究プロジェクトでPMを経験。2017年、「アルゴリズムで社会はもっとシンプルになる」というミッションを掲げACES を創業。学術的な研究を足場に、AI技術を社会実装することを日々意識し、事業を率いる。

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